基礎科学から生態系を考える面白さ
三木 健教授
Takeshi Miki
専門領域・
研究テーマについて
専門分野について教えてください。
生態学はもともと生物個体以上のスケールの生命現象と生物集団を取り巻く物理・化学的環境との相互作用に関する学問でした。しかし、分子生物学や細胞生物学の発展とともにその扱う対象は個体以下の生命現象をも含むようになり、いまでは「遺伝子から生態系まで」を一挙に扱う大変野心的な学問分野となっています。しかしこの大いなる挑戦が仇となって扱う問題の階層ごとに小分野に分断化され、最上位層の生態系レベルの現象について定量性のある理論や予報はまだまだ限られています(全くできないわけではありません)。なぜなら基礎科学としての生態学は、階層を一つ一つ上がっていくようなボトムアップアプローチ、すなわち、ある階層におけるプロセス(過程)から一つ上の階層のパターンの説明をめざす機構論的アプローチ、を採るしかないのですが、これにはいろいろ無理があるからです。一つには上の階層のパターンそのものが下の階層のプロセスに影響するようなフィードバックが内包されているからで、また一つには、下から上へ階層を上がるたびに必然的に残る不確実性が多層構造の中でどのように伝播するか評価できないからです。したがって基礎科学の立場に立つ限り、「機構の理解無くして予測なし、定量的予報なんておこがましくてできないよ」という気分になってしまうわけです。しかし、環境科学の中の一分野として生態学をとらえた場合、あるいは生物多様性保全や生態系保全ひいては生態系制御などの応用科学的側面から見た場合、あるいは工学的立場から見た場合、基礎生態学が機構原理主義ともいうべき原則論にとどまる姿勢は非常に歯がゆく感じられるでしょう。そこで新しい研究の方向性として、機構論的理解を待たずとも中間階層やフィードバックに目をつぶって最下層である遺伝子から、一気にジャンプして直接最上層である生態系の特性を定量的に予測してみよう、という楽観的な考えがあります。これを「定量生態学」といいます。
専門分野の面白さは、どんなところですか?
生態学の発展の歴史はこれまで、科学者の直感が裏切られることの連続でした。たとえば、エネルギー生産性の高い生態系ほど安定に維持されやすいはずだ、複雑で多様な生態系ほど安定に存続されるはずだ、などの直感です。直感に反する事実に直面したときにの不安と、直感・思い込みによる間違いが解消される瞬間の快感は、専門分野について深い学びをすることで初めて味わうこととのできる稀有な感覚だと思います。
受験生に向けて
受験勉強のコツがあればお教えください。
各教科ごと、これと決めた参考書を何回も読み直し、同じ問題を何度も解くことです。おそらく参考書の数と成績は反比例します。また、複数の教科をまんべんなく勉強することも重要です。各教科の成績がずば抜けてよくなくても、成績のバランスがよいだけで順位はとてもよくなります。大手予備校全国模試で一位をとったことのある私がいうのだから間違いはないはずです。
もし先生が先端理工学部の学生なら、どんなプログラムを組み合わせますか?
生物の複雑な世界を、数理とデータの眼を通じて理解したいと思うので。現象の数理、データサイエンス、情報科学、生物多様性サイエンスを組み合わせるでしょう。