多様な「動き」の仕組みを理解し、再現し、コントロールする
樋口 三郎准教授
Saburo Higuchi
専門領域・
研究テーマについて
専門分野について教えてください。
現象の数理は、数学、物理、コンピュータなど、使えるものはなんでも総動員して、世の中にある自然、生物、社会、人間の動きの仕組みを理解して再現し、さらにはそれをコントロールすることが目的です。例えば、ゲームでは演出が加えられていて、現実の動きとはちょっと変わってるのがおもしろいでしょ。それには、まず現実の動きを再現できてなきゃいけないですよね。性能のいい飛行機を作って操縦するには、もちろん紙飛行機をまっすぐ投げたときにどう飛ぶか、仕組みからわかってないといけないですよね。そのへんが理解と再現です。計算機を使った再現をシミュレーションと言ったりします。
統計力学は、現象の数理の中でも、たくさんの「もの」が集まったときの動きを、「もの」の種類にこだわらずに調べる分野です。コンピュータもよく使います。「たくさんの」というところでデータサイエンスと共感するものがあり、統計力学は機械学習にいろいろなアイデアを供給しています。
「たくさんの」「もの」のひとつとして、人間の集団も相手にします。通路での人の集団の歩行、高速道路での車群の走行などの研究が行われています。歩行、走行がスムーズになるには、通路や高速道路や規則にどういう修正を加えてコントロールすればいいかわかることが最終的な目的です。インターネットのサイト、ユーザ、オンラインのコースで学ぶ人々なども「たくさんの」「もの」と捉えられる場合があります。
この分野の面白さは、どんなところですか?
自分の考えた仕組みにしたがう「もの」の動きを、コンピュータで再現して実物と比べられる、自分が考えたコントロールで「もの」の動きがどう変わるか、目ですぐに観察できるところが楽しいですね。抽象的に感じられることもある数学ですが、コンピュータプログラムの意味を目で見て実感できます。
現象の数理のノリでいくと、「人が何かを理解する」「人が何かをできるようになる」という過程の仕組みを知りたくなります。そしてその効率を上げるようなコントロールをしたくなりますが、これは認知科学、学習科学が取り組んできたとても難しい問題です。
コンピュータのプログラムの速さは、アイデアで10倍、100倍と高速化されることがありますが、人間の学習を10%速くできたら、塾業界でトップに立てます。「現象の数理のノリでできないか?」と言うとだいたい笑われますが、あきらめてません。
受験生に向けて
受験勉強のコツを教えてください。
勉強のしかたには、正解というものはありません。好みのやり方を勧めてくれる人は多くいますが、効率の良い勉強のしかたは分野と人によって違います。いろいろな勉強のしかたをちょっとずつ試して(でも時間をかけすぎずに)自分に合ったものを見つけましょう。プレイヤーとして突っ走るだけでなく、自分自身のコーチになったつもりで、いい練習方法、向いてるプレイスタイルを探してあげましょう。
もし先生が先端理工学部の学生なら、どんなプログラムを組み合わせますか?
今の芸風に影響を受けてしまうのですが、「現象の数理」に「データサイエンス」と「人工知能」を組み合わせたいです。現象の数理では、使えるものは何でも使うし、数式で記述したり、コンピュータのプログラムとして記述したり、モノで記述したり…ですが、最近は、データサイエンスの方から来た、大量のデータとそれを生成する仕組みで記述する方法からいろいろなアイデアが出てきています。
また、逆に現象の数理の方からは、量子コンピュータ、量子アニーリング、ニューラルネットワーク(ディープラーニングの先祖)、モンテカルロなど、人工知能に使われるアイデアがたくさん生み出されています。この3つのプログラムの交わるところには、おもしろいことが起きそうです。